東京藝術大学大学美術館(以下「大学美術館」)は、前身にあたる芸術資料館から改組拡充して平成10年(1998)に発足した学内共同教育研究施設です。大学美術館には、前身となる東京美術学校の設置から現在までに収集された芸術資料(以下「所蔵品」)が数多く保管されています。これらの核となっているのは、国宝?重要文化財23件を含む名品や歴代教員の作品及び学生による卒業制作であり、その総件数は3万件を越える規模となっています。
本学の芸術資料の収集は、 明治20年(1887)の東京美術学校設置に先立つ時期から行われてきました。集められた古今東西の優れた美術品は、参考資料として教育現場で活用されました。それとともに、卒業制作や自画像など、学生の生み出した作品も収集されています。これらの所蔵品は東京美術学校時代には、「文庫」と呼ばれた図書館内に納められていました。
昭和24年(1949)には東京美術学校と東京音楽学校が統合され、東京藝術大学が設置されます。その後も所蔵品は附属図書館が管理し、教育研究に供してきました。そして昭和45年(1970)には芸術資料部門が独立して「芸術資料館」が発足しました。ここに音楽学部に保管されていた音楽学校時代の楽器資料等も加えて、美術?音楽両学部の共同利用機関として、芸術資料の研究?保存?公開のために活動を続けてきました。
しかし、施設の老朽化、そして所蔵品の増加?規模拡大に伴う収蔵庫の狭隘化により、収蔵機能の拡張が必要となりました。それとともに、コレクションの規模に見合った充分な展示スペースへの要望が学内外から高まりました。これにより、平成6年(1994)には取手校地に芸術資料館取手館(現在の大学美術館取手館)が開館しました。
そして平成8年(1996)、大学全体を制作現場と展示の場としてとらえたファクトリーミュージアム構想の一環として、上野校地でも美術館新館が着工されます。平成10年(1998)には「芸術資料館」から改組拡充し「大学美術館」となり、翌平成11年(1999)に本館が開館しました。以来、所蔵品の管理と展示公開の他、企画展や教員?学生の作品発表の場としての役目を果たし続けています。
さらに取手館開館から30年を迎えた令和6年(2024)には、取手館に併設して「取手収蔵棟」が建設されました。これにより取手校地における収蔵機能が拡張されただけでなく、2階収蔵庫前室に「魅せる収蔵庫」が設置され、収蔵エリアを社会に開いていく試みをはじめました。
大学美術館の所蔵品は、本学のこれまでの教育研究活動、さらにいえば日本近現代美術教育史の展開が見通せる「アーカイブ」としての重要性を持っています。同時に大学美術館の展示空間は、学生?教員の教育研究成果を発表する場でもあります。このようなモノと場を拠点として、大学美術館では「所蔵品の管理と活用」「多種多様な展示企画」「学芸員課程をはじめとする教育」「地域とつながる社会共創活動」という4つの指針を定め、本学の美術教育の発展に資する活動を進めてまいります。