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藝大リレーコラム - 第七十八回 向山佳絵子「初年度の夏休みに、思う」 ?

連続コラム:藝大リレーコラム

連続コラム:藝大リレーコラム

第七十八回 向山佳絵子「初年度の夏休みに、思う」 ?

 東京藝術大学に着任して初めての夏休み。すでに8月が終わろうとしている。子どもの頃から夏休みは嬉しいものだったが、教員にとってもこんなに「お休み」を実感できると知ったのは、ここ数年のことだ。?
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 これまで、フリーのチェリスト、スタジオミュージシャン、弦楽四重奏団のメンバー、オーケストラプレイヤー、大学での教職… いろいろな顔でチェロと付き合ってきた。仕事としては35年ほどになるだろうか。
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 「人生一度きり、悔いなく生きよう」をモットーに?藝大を卒業した翌々年結婚してインチキ主婦の肩書きを手に入れ、そして2人の息子の母にもなった。本学の非常勤講師として初めて学生を受け持ったのは、長男が幼稚園に入った年だった。ちなみに、次男も、私の母も藝大のチェロ専攻という、ちょっと珍しい家系である。
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2000年10月響ホール楽屋にて
子どもたちと

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 私自身の大学生活を思い起こしてみると、およそ学習とは無縁。和声や分析の必要性を考えることすらなく過ごしていたし、小さい頃「毎日本番だったらいいのに」と云っていたくらい練習嫌いなのも変わらずで、スタジオの仕事(現場で初見で弾いて録音)に出会ったときは、天職じゃないかと思ったほどだった。
? そんな私でも、チェロと真面目に向き合うことになる大切な出会いが、いくつもあった。
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1992年12月カザルスホールにて恩師ゲリンガス氏と

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 もちろんチェロを始めたときからきちんとレッスンに通い、楽器を弾く技術、楽譜通り演奏することに関しては、かなり厳しく叩き込まれたのだが、音楽を表現する段階で、当時殻を破れずに行き詰まっていたように思う。今となれば、だが。 そのようななか、大学ではチェロ以外の先生方にもアドバイスやチャンスをいただいたり、学外でも素晴らしい音楽家との共演から気づきや学びがあったり、また、その出会いから、留学できることになったり、海外の音楽祭に呼ばれることもあった。人との出会いが演奏を変え、また演奏が人を繋げていってくれるのだと思う。
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? 折にふれて若い人たちに云っていることがある。
?「視野を広げて、相手を思いやり、出会いを大切に」?
 人間としても、演奏する上でも大事なのでは?と思っている。?
 藝大を巣立っていく学生が選ぶ道はさまざまだ。できることなら、全員笑顔で悔いなく前向きに生きていってほしい。?
 かつての私の不勉強は、教職についた今まさに災いとして降りかかってきているが、学生たちの笑顔のために、また10月から彼らに寄り添っていこう、と夏の終わりに思う。

【プロフィール】

向山佳絵子
東京藝術大学 音楽学部器楽科准教授 1985年第54回日本音楽コンクール第1位、1990年第10回ガスパール?カサド国際チェロ?コンクール第1位、1987年度アリオン賞審査委員奨励賞、第2回出光音楽賞受賞。 東京藝術大学音楽学部非常勤講師、武蔵野音楽大学非常勤講師、NHK交響楽団首席奏者、京都市立芸術大学准教授を経て、2024年4月より本学准教授。